ほとんどの人に、「やりたいこと」なんて必要ない(参考書籍:転職の思考法)

なぜ読んだか

もともと転職を1度していることもあり、また今のベンチャー企業でで採用に関わっていることから、転職活動について触れることも多いので、Newspicksやツイッターでも「キャリア」はテーマとして大好物です。

本書は、今度僕のチームメンバーとして入社してくれる方から、転職活動中に読んで影響を受けたと聞きました。

自分の面接を通じて入社を決断していただくことは喜びが大きいですが、その大いなる決断を後悔させちゃいかんなというプレッシャーもなかなかのものです。

そこで、事前に彼の思考などを理解するためにも読んでおこうと思い手に取りました。 

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前半は市場価値について

主に、転職の際のスタンスや企業選びのポイントが整理されております。

  1. 社内の評価ではなく、市場から評価される人材になろう
  2. 足元の経験で成果を伸ばし(専門性)、仕事を膨らませる(経験)
  3. 将来的に代替されないスキル・経験を今のうちからつけておこう

特に、1.について、今後のキャリアを思考する際に有益な情報が多くございましたので、ここではその市場価値の測り方について整理しておきます。

市場価値を測る3ポイント

本書では自身のマーケットバリューを理解し、しっかり将来に投資することを大前提としております。マーケットバリューは下記の3点で測定が可能です。

 

①技術資産:「専門性」と「経験」

②人的資産:人脈

③業界の生産性:一人当たりの粗利

 

例えば、僕の前職である製薬会社の営業職(MR)という職種で整理してみます。

 

①技術資産:★☆☆

かなりきついと思います。ルートセールスという専門性は身につきますが、経験を積むのが非常に時間がかかる。一般的にとられるエリア担当制についても3〜5年の周期で、チームマネジメントができるのも早くて30代中盤といった印象です。

さらに本書でも下記のように指摘されている通り、業界内でしか応用できないスキルや経験が多く、専門性という観点でも市場での競争力は低いと思います。その代わり、業界内での転職は容易かと。

大事なのは他の会社でも展開できるかどうか?

もし他の会社では展開できないなら、それは技術資産ではない

 

 ②人的資産:★☆☆

こちらもあくまでも個人的な感覚ですが、厳しいです。

一見、エリア担当で長期の取引になるので、例えば一部の医師などどはかなり深い関係性を築けます。しかし、顧客からの信頼はあくまでも「製薬会社の看板を背負っている状態」が前提となります。

つまり、ここでいう人的資産はその人のビジネススキルを土台とした「信頼」が必要ということで、単に仲がよいというものでは不十分だという理解です。

また、エリア担当制というのも、会社の文脈でその交流の範囲が制限されるという意味と同義なので、やはり次のキャリアに活かせるような人的資産は形成しにくいです。むしろ、たまたま繋がっているこの人的資産をどう活かそう、というチャネルありきの方法論となりそうで、いまいち活かせるイメージがありません。

 

③業界の生産性:★★★

これは文句無しの★3つかと思います。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)にも書かれている通り、製薬会社は業界としての利益確保がしやすい「構造」にあります(下記引用)

ファイブフォースの考えからすると、製薬会社は少なくともこれまでは、限りなく5つ星に近い業界です。

A:業界内部の対抗度(小)=製品の住み分けができているので正面からの殴り合いが少ない

B:新規参入の脅威(小)=投資をしてから回収までが10年ほどかかる

C:代替品の脅威(小)=西洋医学の信頼性高い

D:供給業者の交渉力(小)=化学品はどこの製品を使っても大差ない

E:買い手の交渉力(小)=価格は国が決めている+意思決定者と使用者と支払者が三者に分かれている

 

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)より

 

本書ではこの3番目の要素をかなり強調してます。おそらく、上記の2つと比べて客観的に「判断しやすく」「確からしい」要素だからだと思います。

いくら技術資産や人的資産が高くても、そもそもの産業を間違ったら、マーケットバリューは絶対に高くならない。

 

本書の最後でも、キャリアコンサルタントから転職活動中の主人公青野に対して、下記のように締められます。

 

 「伸びている市場に身をおけ。その上で、自分を信じろ、青野よ」

 

仕事はライフサイクルという観点で選べ

しかし、製薬業界は業界としては◎だけど、MRという職種自体は△ということになります。それは、”仕事のライフサイクル”という考えで、下記でいう③のフェーズだからです。

すべての仕事には、明確に賞味期限がある。

①「ニッチ」:他に誰も同じことをやっていないので、替えが効かない

②「スター」:ニッチが儲かることがわかるとその仕事をする人が増える

③「ルーチンワーク」:これまでは限られた人しかできなかったものが、一気に代替可能になる

④「消滅」:人件費削減のため、機械によって代替する方向に進む

 

とはいえ、MRは対面での対応の細やかさを求められる営業ではあるため、一気に機械化は難しく、じわじわと減っていくことが想定されます。そう考えると、僕たちの世代でもしばらくは椅子がなくなることはないとは思いますが、仮に僕が40代で④のフェーズに以降した場合、技術資産も人的資産も不十分のまま転職市場の戦にでることはなんともコワイ・・これが、僕が3年前に転職した理由の主要因でした。

上記のような整理は、どんな業界にいる人も、定期的に振り返ったほうが良いのだと思います。

後半がオススメ

特に第4章「仕事はいつから「楽しくないもの」になったのだろうか?」は一度目を通しておくことをオススメします。

特に、次の部分が良いインプットになりました。

 

ほとんどの人に、「やりたいこと」なんて必要ない 

人間には2パターンいる。そして君のような人間には、心から楽しめることなんて必要ないと言っているんだ。むしろ必要なのは、心から楽しめる「状態」なんだ。

 

to doに重きをおく:何をするか、で物事を考える。明確な夢や目標を持っている。→全体の1%
being に重きをおく:どんな人でありたいか、どんな状態でありたいかを重視する。→全体の99%
 
やりたいことや夢を持て、という極めて難しい(と個人的には思っている)ことを、別に全員がそうじゃないよね、という主張かと。
ポイントは「99%の人間が君と同じ、being型なんだ」といことです。僕にとって非常に腑に落ちる見解で、ある種すっきりした部分もありました。
 
よくキャリアは「山登り型」と「川下り型」に分類されると言いますが、おそらく山登り型=to doで川下り型=beingという概念に近いのではないかと思います。
僕もこれまでは川下り型(自分の意思決定でポジションを要請するのではなく、組織の意思決定でポジションが変遷し成長するパターン)なので、ずっと山登り型を推奨するビジネス本や上司に対して違和感を覚えてきました。
 
このような川下り型のキャリア選択をする人間にとって、ヒントになるのが「フロー体験」だと思います。
<フロー体験>
1つの活動に深く没入しているので、他の何ものも問題にならなくなる状態。その経験それ自体が非常に楽しいので、純粋にそれをするということのために多くの時間や労力を費やすような状態

 

 
フロー体験は「挑戦」と「能力」のバランスが取れている条件下で発生すると言われます。(下記メモ)

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 例えば、僕のキャリアを振り返ると
 
  • 新卒〜3年目 不安期:挑戦のレベルが自分の能力を上回る
  • 3年目〜5年目 退屈期:自分の能力が挑戦のレベルを上回る
  • 転職〜2年目 不安期:挑戦のレベルが自分の能力を上回る
  • 2年目〜現在 不安よりのフロー状態:挑戦のレベルが自分の能力とバランスが良かったり、挑戦のレベルが上回ったり
 
という感じになります。 
本書では、このようなフローの意味合いを下記で整理されております。
状態とは自分の環境の二つがある
1.自分の状態:主人公は適切な強さか、主人公は信頼できるか
2.環境の状態:緊張と緩和のバランスは心地よい状態か 

特に、2の観点はフローの話と近いような気がします。緊張、という表現がとても身近な感情なので、定期的にその状態が実現できていら内省する尺度としては良いと思いました。

下記のようなことも日常で忙殺されると見逃してしまいがちな観点なので肝に命じていきたいですね。

目線が「社内」だけに向いていたとしよう。この場合、悪い緊張であることが多い。一方、競合とのコンペ、クライアントへのプレゼン、タフな交渉が伴う営業の場などは「社外」に目が向いている。だから、いい緊張であることが多い。

being型の人間は 「どんな状態でありたいか」が目的だとしたときに、幸せなキャリアをつかむには「どんな状態が好きか」を知っておくことになります。これは、自分でしかわからないものだし、常に状態チェックを行う必要があると思いますので、ストイックにキャリアに向き合っていきたいと思います。

 

自分に「ラベル」を貼れ

「好きなことがわかったら、それを自分の『ラベル』にしろ。

これからの時代にどんなややつが強いかわかるか?それは個人として「ラベル」を持っているやつだ。

『ラベル』とは、自分だけのキャッチコピーのようなものだ。

組織が、個人を守ってくれる時代は終わった。

そのときにひとつでもいいから個人としての『ラベル』を持ってないと、君は完全なコモディディになる。」

 

つまりアウトプットの質は、その内容ではなく、つまり「何を言っているか」ではなく、「誰が言っているか」が非常に大切になるかと。

お前は誰なんだ、というわかりやすい指標がないと、せっかくのアウトプットが良いものだとしても埋没するものとなります。

なので、直近ではラベル・自分のキャッチコピーを試行錯誤してはいますが、これが難しい。

 

ただ、本書には一つヒントもありました。

「たとえば、『これからできるようになりたいこと』でも、ラベルに書いていいのでしょうか。」

「かまわない。最初は嘘八百でいい。理想や、憧れも大歓迎だ。大事なのは、仮でもいいからそのラベルを自分でつけること。そうすれば、やるべきこと、仕事を選ぶ基準が見えてくる。」

 

これは、完訳 7つの習慣 人格主義の回復でいう”人生のミッションステートメントの設定”と近いような気がします。会社や上司の原則(そもそもそんなものはない)ではなく、自分の原則に従って生きる。それは周囲からすると、必ずしも賞賛に値しない可能性もあるけれど、自分の輪郭が浮き彫りになって、仕事が進めやすくなったり、翻って、自分で仕事を選べたりすることにつながるのだと整理できました。

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最後に

ひとまず、来週から入社される青年との「共通言語」は手に入れることができました。
それだけではなく、後半では自分の思考を補強することもできたので良い本当の出会いとなりました。
ちなみに、著者の北野さんはツイッターやメディアでもインフルエンサーとして活躍されてますので、今後の発信などにも注目していきたいと思っております。
 
今回も最後まで目を通していただき、ありがとうございます。
 
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このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

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