B2Bセールスが今こそ読むべき『THE MODEL』という教科書(参考書籍:THE MODEL マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス)
THE MODEL の大衆化
2019年1月にB2Bセールスは一つの節目を迎えました。なぜなら、マルケト社の社長である福田さんの著書「THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス」が発売されたからです。
twitterなどのSNSでも話題になってましたし、ご存知の方も多いかもしれませんが、Saas系のセミナーやブログでは頻繁に出てくる「THE MODEL」というセールスのプロセスをパイプライン管理する概念を懇切丁寧に説明してくれる本です。
注目すべき3つの理由
なぜ「節目」という大げさな表現をしているかというと、
1)マーケティングなどの分野と比較して長らく遅れをとっていた「セールス×科学」の領域において、THE MODELの概念は画期的かつすでにある程度体系化されている
2)そのナレッジが日本語で書かれた書物を通して日本人誰でも理解できるようになった(コモディディ化)
3)よって、THE MODELに習って実行する企業が増えさらにナレッジが溜まっていく/改善されていく
ことが想定されるからです。
なぜ THE MODEL が優れているか
そもそもなぜTHE MODELの概念が優れているかということを整理したいのですが、その前にこの概念が分業制を前提としているということに簡単に触れる必要があります。
B2Bセールスのプロセスは、基本的には下記に分解できます。
・新しい顧客と接点をもつ(リードジェネレーション)
・顧客に自社商品の理解を進めてもらう(リードナーチャリング)
・顧客に商品購入を検討してもらう(セールス)
・実際に購入してもらう(オンボーディング)
・継続して購入してもらう(リテンション)
・もっと購入してもらう/別の商品を購入してもらう(アップセル・クロスセル)
この考えを細くなっていく漏斗に例えてファネル戦略と呼ばれてます。漏斗から生み出される成果物の総量を高めようということですね。
分業制のメリット
マーケティングの考えと一緒で、基本的には母数である「顧客接点」を最大化し、実際に購入して顧客になってもらうまでの展開率を高めていくという作業ですが、その各工程を工場のように分解して機能別に担当する、ということが「分業制」の特徴です。
これによるメリットを5つに整理してみました。
1. 各工程の業務に集中できる
これまでのセールスは、自分で電話をかけて、自分でアポをとって、自分で訪問して、すぐに受注になる案件もそうでない案件も管理・メンテナンスしながら、また新しい顧客を見つけるために電話する・・という全行程を一人で担っていました。
しかし、THE MODELでは、それぞれの工程でそれぞれのノウハウがあり、使う筋肉も違うということを前提とし、それであれば各工程の業務に集中しようという発想です。
目の前の案件と新規顧客の開拓、この両方を一人でこなすのは時間がないことに加え、短距離と長距離を交互に走るようなもので、リズムが違う仕事なのでなかなか作業の効率が上がらない。分業すれば、同じリズムの仕事に集中することができる。(p20)
2. 研鑽ができる
一つの工程の業務に集中ができるということは、それだけその工程で研鑽ができるということです。
楽器の練習は最初は「リズム」だけ、次に「メロディ」だけ、という形でそれぞれの工程をとりあえずずっと練習することで洗練されていきます。しかし、セールスの世界ではそんなの御構い無しで、「全部いっぺんにやってみなはれ」でスタートします。これでは器用さや経験値で差が開いてしまうのは当然です。分業にすることで、まずは「商談設定すること」のプロフェッショナルになれますし、その業務に集中できるのでうまくなるのも早い。
3. 採用のターゲットも広がる
たとえ優秀だけど営業が未経験だからどうしようかな・・という採用の悩ましい場面でも、まずは比較的簡単な工程から始めようとできるため(一般的には前工程のインサイドセールスが育成機関の対象とされます)、採用の対象も広がります。ちなみに、営業が100%の戦力になるまでの期間を「ランプタイム」と呼び、その期間の圧縮=売り上げ向上とする考えもあります。
全行程を担うセールスと比較すると、その成長の早さを考慮して、分業制の方が「ランプタイム」が短くなるというのは自明ですね。
4. 顧客に価値提供できる
もしかするとここが一番重要かもしれませんが、自社の売り上げ拡張をするための生産性の向上ということだけではなく、顧客へ貢献ができるという観点です。
これまでのように1人のセールスが1つの顧客を担当するということは、そのセールスにとってのインセンティブがないと顧客への提案活動というのは滞ります。
例えば、売り上げ達成する見込みがあるセールスが保有している新規顧客は放置されがちかもしれません。しかし、分業制にすることでそういった顧客はすべてアプローチすべき顧客へと変換されます。
さらに言えば、顧客は「顧客が情報がほしい」と思ったタイミングでしか情報を受け取りたくありません。分業制はそういった顧客の状態を検知するのに適してます。逆に言えば、全行程セールスはセールスのリズムで顧客と接点を取りに行きますので、これとは逆行してしまっているということがわかります。
顧客は購買のプロセスを、自分が決めたタイミングで、自分が信じられる有益な情報を好みの方法で入手し、営業担当者に売り込まれることなく自分のペースで進めたい。そして、自分のことを理解してくれる企業から購入したいと考えている。すぐれた顧客体験は、価格や商品そのものよりも重要な意思決定の基準になっているのだ。(p48)
5. 個ではなく組織で戦える
これまで見てきたように、全行程セールスでは対応しきれなかった領域を組織全体で最適な配分をすることで底上げしようという考えのため、当然ですが組織で一つの売り上げや目標を追っていくという姿勢がカルチャーとして醸成されます。
セールスのポジションとして面接をしていると、「個人の目標をひらすら追いかけていて、顧客のためというより会社のために働いている気がした」ということをよく聞きます。それも、全行程を一人で担うセールスだとどうしても目標や視点が「自分の成績」ということに集約されがちだという構造的な原因があると思います。
しかし、分業をすることで、なぜ、なんのためにこの業務に取り組んでいるか?とうことを考える機会が増えます。そして、それをチーム内でディスカッションする機会も増えます。成功事例や失敗事例の共有、トークスクリプトやメールのテンプレの共有など、個ではなく組織で戦う意識がどんどん醸成されます。
これは、セールスのモチベーションを高める効果もあると思いますし、何よりもセールスが楽しくなると考えています。
楽しくなればセールスを目指す人も増える。そうなると、優秀な人が増え、またセールスの領域が面白くなるという好循環を生むはずです。
最後に
以上、ここでは分業のメリットに触れましたが、もちろん体制を整えるまでの苦労や、その旗振りをやりきる人材の問題など、課題も多くありますが、それ以上にここに向き合うことで得られるものが多いというのが今のところ僕の所感です。
そして、この本から得られるものはこんな程度ではありません。これまでのセールス活動の整理にもなりますし、漠然と考えていた事象がちゃんと問題としてフォーカスされ、その細部の打ち手や考え方まで記載があります。
BtoBセールスに関わる人、特にSMB市場(中小企業のマーケット)に向き合っている方は避けて通れない一冊かと思います。(これで2,000円かと思うと本がいかにコスパがよい投資かを実感します)
僕の会社のデスクにはこの本が当面置きっ放しになりそうな予感がしてます。
(以上)
◆このブログで取り上げた書物
THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス
- 作者: 福田康隆
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2019/01/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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