『インターネット的(糸井重里)』を読んで、インターネット登場前後を考えてみる(参考書籍:インターネット的)

まさに未来予知的な本

糸井重里さんが書かれた『インターネット的 (PHP文庫)』という本を読みました。

この本はインターネット創世記の2001年にインターネットの登場により世界がどう変わるのかという視点で書かれている本ですが、帯にも「まるで、予言音の書」と謳われている通り、今年書いたと言われても驚かないくらい鋭い洞察と予知的なことで満載です。

例えば、下記のようなサービスを現代に当てはめてみると非常に面白い。

 

・レシピ共有サイト

いまおかずの例を出しましたが、家庭料理というのは、インターネットにとても向いている情報だと思いますね。(中略)現物は届けられなくても、おいしい肉じゃがのレシピがおうそわけできたら、ごく短い期間で、日本中の肉じゃがが美味しくなるというような可能性があるわけでしょう。

これは現在では「クックパッド」というサービスで、インターネットの力によって爆発的に広がっている概念ですよね。

 

・有料ブログ

本の「価値の本体」は情報であると考えれば、もしかしたら、本の中でほんとうに必要な情報はたった1ページであるかもしれません。(中略)そしたら、たった1ページで価格30円という本があったっていいかもしれません。

今では「NOTE」というサービスで、誰でも記事を書いて有料で販売できます。

 

・ツイッターなどのSNS

ある思いが、まだ熟していないままに、仮の言葉でまず結晶化していくのがインターネット的で、ネットに触れ始めた時、ぼくはどこを面白なぁと思いました。

糸井さん自身が、インターネットの魅力として上記をあげてますが、まさにこういった魅力が全世界的に受け入れられ、今ではツイッターブログという形で、特に文字を書く専門家ではなくても、生煮えの思いや主張を世の中に発信する時代になりました。

 

このように、当時の「インターネットでこんなことができるかも」というアイデアが現実に多くの人が利用するサービスとして具現化しているということを僕らは答え合わせのように楽しむことができます。

糸井さんはなぜ、未来を想像する力が強いのかと考えながら読んでいたのですが、一つ、これじゃないかと気付くことがありました。

それは、「人間本来の欲望や行動特性をよく観察し、理解しようとしているから」ということです。

 

人間本来の姿に目を向ける

そう思ったのは、後半に書かれているこの文に目を通した時です。

インターネットそのものが何か素晴らしい魔法のわけではなくインターネットは人と人、人の考えや思いを繋げるだけですから、これによって社会が豊かになっていくかどうかは、それを使う「人」が、何をどう思い、どんな考えを生み出すかにかかっているのではないでしょうか。

つまり、インターネットというテクノロジーや新しいツールにばかり目を向けるのではなく、あくまでも「人」に焦点を当てて、インターネットはその「人」の可能性を拡張したり、喜びみたいなものを増やすという観点で捉えるというスタンスでいるということかと。

この本では、そういった人間本来の姿を前提にいろいろなことが「こうなるんじゃないか」という想像が広がります。人間の本質を常に考えるから、新しい道具を手に入れたら人間はこうするんじゃないか、こうなっていくのでは、と未来予知的なことができるのだと思います。

 

ここでは、「インターネット的」という考えを通じて、2001年当時、人間にどのような変化が生まれると考えられていたのか、簡単にまとめておきます。そうすることで、当たり前だと思っていた価値に気付けるような気がします。

 

「インターネット的」な概念で世の中はこう変わる

1.情報がリンクする

 ・「問い」のほうにも、「答え」のほうにも、たくさんの付属する情報があるが、それが有機的につながりあう。

 ・周辺情報だとか、リンクの先のリンクにまで延々と深く繋がってゆく。

 2.情報をシェアする

 ・先んじて情報をシェアする。そうすると、「ありがとう」の代わりに、「では、わたしも別の情報シェアしましょう」とシェアとリンクが絡み合っていく。なんとも快適な連鎖構造ができていく。

 ・情報をたくさん出した人のところに、情報がドット集まっていく。

3.価値の優先順位付けが多様化する

 ・価値が多様化するというよりは、価値の順位づけが多様化する。価値の順位組み替えは個人の自由になっていく。

 ・いままでの大人が持たずに済んできた「大きな価値のプライオリティ」の悩みが、大人も持つようになる。

4.情報全体でやりとりできるようになる

 ・時間や面積という不動産価値にとらわれる必要がないおかげで、三時間の対談を三時間すべてだしてしまうことができる。

 ・ある思いが、まだ熟していないままに、仮の言葉でまず結晶化していく

5.自前で祭りができる

 ・いままでのようにビジネスしたい人に頼まれて、「余ったお金で、大きいお祭りをつくってね」と言われるのではなく、祭りをつくるエネルギーが先になって、商売をしたい人を巻き込むことができる

6.お金がなくても何度でも実験ができる

 ・トライアルとエラーの実験を、短い時間のうちに何度も繰り返すという方法は、あちこちで行われていく

7.ビジョナリーな企業が選ばれる

 ・その企業の実現んしたい社会像に、まるで選挙の投票をするように、「買い物」とするようになる

 8.悩む前に行動

 ・「やりたければやる」「選びたいものがあったら、もっといいものを持つよりも、すぐにやる」というのが、インターネット的

 

最後に

こうしてみると、ビジネスシーンにおいて大事だよねといわれていることは、結構インターネット的な思考の影響が大きいことがわかります。

例えば、トライ&エラーは仕事の進め方において一般的であるし、企業自体が強烈なビジョンを持って、さらにそれを公開して採用や広報に利用するなども一般的な方法です。

ですが、これらが元来当たり前ではなく、インターネットというテクノロジーによって、人間という生き物がそれを利用することによって生じたことなんだってことは今一度理解しておく必要があるかと思います。

印刷機や蒸気機関車などの革新的なテクノロジーが普及するようになったタイミングでもおそらく同じような動きはあったのかもしれません。それぞれ、知識の普及、もの・人ともに空間移動力の向上など、もしかしたらインターネットよりも大きなインパクトだったかもしれません。

しかし、それらは僕らにとってはすでに当たり前で、うまれる前からあるもの。インターネットはそのぎりぎりラインといったところです。ただ、そのテクノロジーが僕らにもたらす恩恵と変化を適切に捉えることが、まだまだインターネット自体の可能性を広げたり、新しいテクノロジーの普及の際に、まるでこの本のような予知的な思考でいられるポイントなのだと思います。

ゴールデンウィークはこういった普段しない思考の幅を広げられるから楽しい。(完)

 

◆本ブログで紹介した本

インターネット的 (PHP文庫)

インターネット的 (PHP文庫)