戦略思考のバイブル(参考書籍:ストーリーとしての競争戦略)

なぜ読んだか

職場でプロダクトリーダーを任されるようになってから約1年がたった。

株主への対外的な約束や、社員の成長の機会、なによりも会社の成長のためなどさまざまな側面があると思うが、基本的にすべてのプロダクトで”前年比130%成長”が当たり前のようになっており、まさに自身のプロダクトでも同じ目標が設定されている。

それに対して、細かくPDCAを回してオペレーションストレッチに実践するのは一定できるが、それだとできて110%成長が限界ではないかと思う。

元マッキンゼーの伊賀さんも著書「生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの」の中でこう言っている。

三%の生産性向上はインプルーブメントによって達成すべき目標で、三割のほうはイノベーションによって達成すべき目標です。(中略)

現場のスタッフが単独で実現できる三%の改善とは異なり、三割もの生産性改善を実現するには、管理職の強い意思とリーダーシップが必要で、実施期間も一年を超え、長期的な視野や計画性、リスクをとっての判断も求められます。

確かにPDCAを回すのは、仕事をしている気にもなるし、社内のステークホルダーへの報告にも十分だ。だが、指数関数的な成長は期待できないので、高い目標には届かないということになる。

そんな課題を感じている中、ずっと本棚の”まだ手つけてないゾーン”に置いてあった「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)」を読み始めた。

 

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読んでどうだったか

本書は、単に戦略思考の”勉強になる”とか、ビジネスへの心構えの”指針になる”とかだけではなく、本としてめちゃくちゃ面白い。

読み終わったときに、「もし経営学直木賞があったら、ぜひ推薦したい一冊である」という帯に書かれている推薦文を見て、共感した。

2011年の著書だが、内容は全然古くない。多分、10年後に読んでも示唆に溢れる内容だと思う。

また、著書の中にも戦略ストーリーは半永久的に存在するものではなく、どこかで再構築しなくてはならないとの主張がある通り、2011年当初では実例でも挙げられている企業が、2018年の今では他社の戦略ストーリーに押し負けている状況だったりする。その当たりを示唆しているあたりも、著者に脱帽という感想を持った。

ここでは、内容をサマっても理解するに至らない(500ページあり、順番に読むことでようやくサマリが理解できる本だと思う)ため、僕にとって新しい切り口や、なんとなく感じていたことが言語化されていて整理できたポイントを整理していきたいと思う。

 

5つの気づき

戦略ストーリーが特に日本人に必要ということ

当たり前だが、戦略ストーリーとは社員それぞれ個別にあるものではなく、組織としてのアウトプット(主に利益)を高めていくためのものである。

その面で言うと、日本人は組織や個人がどう社会に対してアウトプットをしているのかということをすごく大切にする。

実際、自分自身も前職のメーカーで営業しているときも、この商材がどう世の中のためになっているのかばかりを気にし、所属組織の利益にしかなっていないのではないかと結論付けた時期もあった(今考えると、非常に視点が狭かったと思う)。

多分当時の僕のような人間にとって、特にこの視点が大事なんだと理解しており、”組織が社会に対してどうアウトプットしているのか、そのために社員は組織に対してどういうインプットをしなければならないのか”を理解することが、社員のモチベーションになるし、それが組織を動かしていく原動力になるということ。

納得。

ストーリーといいう戦略思考がとりわけ日本企業にとって重要な意味を持っているということになります。(中略)欧米では自分が組織に提供するインプット(機能)がそのまま仕事の定義になるのに対して、日本企業では組織が提供するアウトプット(価値)が人々のアイデンティティとなる傾向にある。(p57) 

必ずエンディングから考える

今の状況からの積み上げで考える癖がついている人は比較的多い印象だが(実際、自分自身もそうであるし、たいてい経験が浅い人はこういった思考になると感じている)、最終的にどういったアウトプットになるのか、ということからの逆算が大事であるということ。

本書では、そういった抽象的なことだけではなく、もう少し踏み込んでエンディングを2つの括りに絞ってくれる。

 利益創出の最終的な理屈は、競合よりも顧客が価値を認める製品やサービスを提供できるか、あるいは競合よりも低いコストで提供できるかのいずれかとなります。(p175)

 誰に嫌われるかをはっきりさせる

エンディングを成し遂げるために大切なコンセプトの設定。

ここが秀逸な企業の実例が多く出ており非常に面白いところなのだが、特に印書的だったのが”誰に嫌われるかをはっきりさせる”という視点。

つまりビジネスでは八方美人はなり立たず(ブルーオーシャンの領域は一時的にはなり得る)、明確に誰かからは嫌われる必要があるということ。

例えばスターバックスは”第3の場所”というコンセプトで、忙しいサラリーマンや、ぱっと小腹を充したい買い物客からは明確に嫌われるように設計されている。

具体的には、注文が入ってからコーヒーを淹れることで”早くコーヒーを飲みたい客”からは嫌われるし、ホットドックなどの軽食がないことで”ちょっと食事をしたい客”からは嫌われる。

しかし、そうすることで”第3の場所”というコンセプトが強烈になり、訪れた人はそのコンセプトを自然と実感することで、ファンになるというストーリー。

ターゲットを明確にすることができているのかを、この視点で常にチェックしていくことが習慣になればいいと思う。

 人間の本性を見つめる

例えば、最近ではSNSなどでのコミュニケーションが主流だが、集客チャネルを考える際に、主流だからSNSを活用するという安易な理屈ではなく、”なぜ人はSNSを使うのか”という人間の本性に戻って思考することが大切ということ。

正直、今はそんなに実感はないが、おそらくこれが一番難しいのではないかと思う(から、著者も本書で何度もこの観点をしてきているのだと思う)。

コンセプトを固めるときは、あくまでも「普通の人々」を念頭に置き、普通の人々の「本性」を直視することが大切です。(p437)

 ストーリーの共有が仕事を面白くする

ストーリーを全員で共有していれば、自分の一挙手一投足が戦略の成否にどのようにかかわっているのか、一人ひとりが根拠を持って日々の仕事に取り組めます。戦略がどこか上の方で漂っている「お題目」でなく、「自分の問題」になります。(p491)

 仕事がつまらくなる理由として、”自己効力感がないこと”と”やらされてる感”が大きいと思っている。

さらにそうなる理由としては大きく、⑴組織の問題(戦略を考えている人間、それを実行”させる”側の人間)と⑵そう思っているヤツの問題(実行する人間、つまらないと言ってる人間)、がある。

本観点は、多分どっちにも効くのだと思う。

基本的に⑵を解消するには非常に骨をおる作業で、そもそも”社員への啓蒙”っぽいことからやらなくてはならない。これは母数も多いし、大変だ。

一方で⑴は少数の優秀な人間が、面白いストーリーを作って、あとはそれに共鳴する人間を増やそうという話なので、その上での”社員への啓蒙”はきっと骨を折る作業からワクワクする作業に変わる。勝手に⑵が解消されていく。

 

読了後に思ったが、僕のいる組織ではストーリーで戦略ができている。

なので、導入研修とかで喋っていて楽しいし、理解もしてもらっていると思う。

ただ、各論の部分ではつながっていなかったり、変化に対応できていないところがある。一定程度の不満も生じている。

 

これは僕の推測だが、多分本書にでているお手本のような戦略ストーリーのある企業でも、各論には無理が生じている箇所があると思うし、そこで働いている人は不満に思っている(と思う)。

ただ、そこで前提のストーリーに戻って、コンセプトからエンディングまでもう一度読み返して、今に立ち返ると多分視点が変わってくるのだと思う。

そういったストーリーを本気で書いてみたいと思った。

 

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ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)