営業マンが早い段階で「マーケティング」を経験すべき2つの理由(参考書籍:隠れたキーマンを探せ!)
キャリア形成において職種は複数経験しておきたい
キャリアを考える時に、「軸」という言葉はよく使われます。それは、第三者にキャラクターや職歴がわかりやすくなるような「ラベル」的な意味であったり、自分が思考を整理して希望の会社を見つけるためだったり、様々な意味があります。
その「軸」は最終的に「どんな業界で働きたいか?」や「どんな職種として貢献したいか?」といった業界や職種などに集約されていきます。それがビジネス界における共通言語なので、そうなるだろうと思います。
職種といえば、セールスやマーケ、経理や人事など業界を超えた「役割」ですよね。ひとつの役割を深く突き詰めれば「プロフェッショナル」に、様々な役割を横断的に経験していると「ゼネラリスト」になります。
そのなかでも多くの人が最初のキャリアとして選ぶ職種が「セールス」ではないでしょうか。なぜならそもそも世の中にセールス職がたくさん必要、ということと、すでにたくさんいるから育成できる、という2つの要素があるからだと考えます。
セールスはセールスとして数年、長ければ数十年のキャリアを歩みます。少なくとも僕の前職の製薬業界では、そういう見通しでした。
しかし、ここ数年、セールスこそ他職種を経験すべきだと強く思うようになりました。自分自身が、ほかの職種を経験したことによる視野の広がりを実感したこともそれを支えていますが、活躍している人の話を聞いていると、各々のブレークポイントみたいなものが「職種を超えた経験」によるものであることが少なくないからです。
そして、セールスが経験すべき職種はマーケティングです。それを、上記のような「成功している人がそうだから」という抽象的な見解ではなく、昨今のセールスが置かれている具体的な状況を鑑みて強く感じるようになりました。データに基づくセールスのあるべき姿が記載れている『チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」』の続編で、2018年12月に出版された『隠れたキーマンを探せ! データが解明した 最新B2B営業法』はまさに、そのようなことを実感する書籍です。
訳者あとがきにも下記のようなことが書かれています。
本書の趣旨はセールスという仕事にマーケティングの考え方を持ち込むことだと置き換えて考えることができる。
なぜ、セールスにマーケの考えが必要なのか、本の内容を見ていきながら整理してみたいと思います。
セールスがマーケを学ぶべき2つの理由
まず、セールスとマーケをどう捉えているかについて、この本の訳者あとがきに、とてもわかりやすい比較がありました。
両者のギャップはセールス、マーケティング、ブランディングの各機能における柔軟性の違いによって生じている。セールスは柔軟性が高く、それぞれのお客様に合わせた個別対応をすることが期待されている。マーケティングはセールス機能と比較すると柔軟性が低く、個別対応ではなく、特定のターゲットセグメントを決めた上で、ターゲット群に共通するメッセージを届けることが期待される。(中略)その観点に立てば、セールスは1to1であり、マーケティングはセグメンテーションであり、ブランディングはマスという概念で括ることができる。
(整理メモ)
・セールス:1to1、柔軟性が高い、川下なので最終工程でテーラーメイドが必要(具体的)
・マーケティング:セグメンテーション、柔軟性が低い、川上なのでセグメントごとのアプローチが必要(抽象的)
では、セールスにマーケティングの考え方が必要というのはどういうことでしょうか?2つの観点から考察してみたいと思います。
1)1to1では、売れなくなってきた
まず、この本が何を言っている書籍なのか?を簡単に下記の引用でまとめておきます(あとがきでこのようなサマリは本当にありがたい)。
・営業現場の変化は、販売活動ではなく、顧客の購買活動から起きている
・購買決定に関わるのは平均5.4人であり、多様化する顧客の購買集団への対応が求められる(★1)
・関係者の多様性が増すと、購買集団の機能不全が起きてしまう
・集団内の対立は購買プロセスの37%到達時点でピークを迎える一方、サプライヤー候補選定は57%到達時点で行われれることで機会ロスをもたらしている(37と57のギャップ)(★2)
・早期に顧客と接点をもち関係構築するためには、顧客関係者5.4人のうち「誰と」話を進めるかが重要であり、その選定が花形販売員と平均販売員の差を分ける
・顧客関係者には7つのタイプがあり、大別するとモビライザー(動員者)とトーカー(話し好き)に分かれる
・優秀なセールスはモビライザーをターゲットとし、平均セールスはトーカーをターゲットとする
★1の部分に注目していただきたいのですが、本書では顧客が何かB2Bの商品を導入するために、意思決定が必要な人数が平均で5.4人関わっている、というデータを紹介しています。つまり、リードジェネレーションやナーチャリングプロセスを経て、ようやくキーマンと繋がってからもなお、複数人に対する啓蒙・提案が必要だということ、すでに、セールスの領域でさえ1to1のアプローチではないということを意味してます。
これに対して必要なのは、「メンタルモデルの再構築」。5.4人に共通して存在しているメンタルモデルを破壊し、自社商品を導入するための新たなメンタルモデルを再構築するということ。これには、最終工程の小手先だけのセールステクニックでは太刀打ちできません。上流から下流まで「幅広い一貫した対応」が必要です。
何よりも重要なのは、サプライヤーの営業、サービスおよびマーケてイング上の各種コミュニケーション全般における、幅広い一貫した対応である。これに実効性を持たせるには、時間や忍耐、徹底した繰り返しのほか、経営幹部の変わらぬサポートが必要となる。
セールスの立場からすれば、マーケサイドが考えた販売手法を徹底することが成果最大化につながるということ。であればこの工程に関与しないということは、影響の範囲を狭めせるということになります(もちろんそれを徹底するだけでも十分価値があると思いますが)。これがセールスもマーケティングの考えを学ぶべき一つ目の理由です。
2)セールスが顧客の意思決定に介入するタイミングが遅くなってきた
★2の「37と57のギャップ」の部分について、大変重要な箇所なので下記の通りもう少し具体的に説明している部分を引用します。
サプライヤーの観点からは、少なくとも、57%という数字によって次のことがわかる。モビライザーの特定や動機付けを可能にするのは、販売員による対面接触ではなく、顧客ともっと早い段階で繋がるための幅広いマーケティングチャネルである。(中略)顧客は放っておけば、サプライヤーへの関与をできるだけ遅らせようとする。(中略)そこで、「指導」の出番となる。顧客とくにモビライザーに、販売員と話さなくてはならないと感じさせるのだ。それは「コマーシャルインサイト」だ。
このまま鵜呑みにするならば、セールスが関与している時点ではマーケットにおける購買可能性がある顧客は相当目減りしているということです。本来、商品を売るという観点に立てば、その上流時点でボトルネックがあるということですから、いかにセールスがスキルをあげて受注率をあげようが、注がれている水の量が減っている以上、その貢献度は相対的に低下していきます。
これは、セールス:マーケの必要構成比がマーケに傾くと捉えることもできます。 実際に、本書では、マーケで考えたコンテンツ(コマーシャルコンテンツ)をセールスは徹底して理解して実行していくことの重要性が説かれています。
しかし、セールスが単にマーケの戦略や方針の受け皿になると、適切なフィードバックがかかりません。マーケが現場まで見にいくというプロセスももちろん重要ですが、基本的に数の多いセールスのインプットを使わない手はないと思います。コマーシャルインサイトの質をあげ、事業としても早くPDCAを回していくという観点で、セールスがマーケの考え方を身に付けるのは重要です。これが理由の2つ目になります。
最後に
以上、セールスがマーケを学ぶべき理由を見てきました。
つまりは、セールスもマーケも、マーケットから顧客化までの全プロセスを思考できることが大事なんだと思いますが、実際は他人事といった感じで浸透させることは難しい。
少なくとも、全体を見ようと意思のある人間が、それを思考できるきっかけをつくるためにも、事業全体でセールスファネルの各工程の可視化をしておくことが大切なんだと多います(自分の事業はいまようやくそのフェーズなんで、この作業の大事さを今噛み締めてます)。(完)
◆ブログで紹介した書籍
- 作者: マシュー・ディクソン,ブレント・アダムソン,パット・スペナー,ニック・トーマン,?田昌典,リブ・コンサルティング,三木俊哉
- 出版社/メーカー: 実業之日本社
- 発売日: 2018/12/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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チャレンジャー・セールス・モデル 成約に直結させる「指導」「適応」「支配」
- 作者: マシュー・ディクソン,Matthew Dixon,ブレント・アダムソン,Brent Adamson,(序文)ニール・ラッカム,Neil Rackham,三木俊哉
- 出版社/メーカー: 海と月社
- 発売日: 2015/10/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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