個人の「働き方」を企業経営に置き換えて考えてみる(参考書籍:働き方の損益分岐点)

キャリア選択は「自己内利益の最大化」を思考すべき

個人のキャリアを考えるときに、多くの人が重要視するのは、「給与」や「条件」などのハード面と「やりがい」「心理的安全性」などのソフト面が挙げられます。これらをそれぞれバラバラの要素だと考えてしまうと、「この会社にはAはあるけどBはない。BよりAの方が優先順位が高いからこの会社に決めよう」という各論の要素で意思決定をしてしまいがちです。

要素分解をすることで見えてくることもありますが、大事なのは最終的にこれらをつなげて考えることです。

そのようにつなげて考えるために有用なのが、「自己内利益の最大化」という考え方です。

 

自己内利益とは

資本主義社会における企業経営において、どの企業にも共通しているのが「利益の最大化」。利益の考え方は至ってシンプルで、

利益 = 売上 ー 費用

になります。

あらゆる施策や戦略は時間軸の差分こそあれ、①売上を伸ばす、か②費用を減らす、に集約されます。実際に①の施策が②にマイナスインパクトを与えたりとするため、それぞれを分けて思考することは難しいですが、考え方としては上記になります。

「自己内利益の最大化」はこれを個人のキャリアに応用して考えるという方法で、それぞれを置き換えると次の通りです。

●売上=年収・昇進から得られる満足感

●費用=必要経費(肉体的・時間的労力や精神的苦痛) 

※詳しくは木暮太一さんが書かれている下記の書籍をご参考ください。

人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点 (講談社+α文庫)

 

 つまり、自己内利益を最大化するためには、

①満足感を変えずに、必要経費をさげる方法
②必要経費を変えずに、満足感をあげる方法

の2つを追求する必要があると置き換えることができます。

 

年収が上がっても「自己内利益」は増えない?

ここで注意しなければならないのは、企業経営と同じように、売上=年収をひたらすら追求するだけでは、自己内利益は増えていかないということです。

例えば、年収が100万円増えても、企業から任せられる仕事が増えて残業が増え、プライベートの時間が削られているのだとすれば、肉体的・時間的労力だけではなく、リフレッシュの時間がなくなって精神的苦痛が蓄積し続けるかもしれません。

こう考えると、実は年収があがっているにもかかわらず、自己内利益は赤字に向かっている可能性も考えられます。

 

自分自身に置き換えて考えてみても、年収が上がっているにもかかわらず「こんなもんか」と思ってしまうこともあり、それは頭の中で必要経費の増加、たとえばマネジメント範囲の広がりによる労力の増加、メンバーそれぞれの不満や喜びに伴奏しなければならないという心理的負荷、などを想像して「妥当だ」と考えているからだと思います。

この考え方はそういったなんとなくのキャリアに対する考え方を『資本論』に基づく論理で補強してくれるものになります。

では、それぞれどういった方法があるのかを見ていきたいと思います。

方法論①必要経費を変えずに、満足感をあげる方法

「労働力の価値」とは?

これを理解するには、まず『資本論』に基づく、「価値」の考え方を理解する必要があります。曰く、価値には「価値」と「使用価値」の2種類があり、それぞれ意味合いが異なります。

「使用価値」:使ってみて意味がある、何かの役に立つ
「価値」:それを作るのにどれくらい手間がかかったかで決まる

 一般的に僕たちがイメージする価値は「使用価値」の方かと思いますが、世の中の商品の値段や、僕たちの労働力の値段を決めているのは後者の「価値」の方です。つまり、コンビニのおにぎりの値段は、米や鮭などの原材料の値段に加え、それを握るのに使った「労働力=手間」で計算されるということです。役に立つレベルで評価されているわけではありません。

では「労働力」はどのように計算されるかというと、「労働力の再生産に必要なものの価値の合計」で決まります。僕たちは、明日また働くのに、ご飯を食べ無くてはならないし、ゆっくり家で休まないと行けない。たまには、飲みに行ってストレスを解消しなければならないし、子供がいるなら子育て・教育費用も負担しなければならない。こういった費用の合計が「労働力の価値」を決めているというのが『資本論』の考え方です。

 

「スキル習得費」も労働力の価値とみなされる

ならば、どの職種でも同じ給与になるのでは?とパッと疑問が浮かびますが、その差分も上記で説明ができます。例えば、経営層や外資営業マンなどもそれ相応のプレッシャーや責任がかかるため、移動にはタクシーを、ストレス解消にはラグジュアリーサービスを、という形で必要経費が増していくということです。これに加えて、その職種や職位の「需要と供給の関係」がプラスアルファ要素になります。

ここで大事なポイントは特別な資格や技能が求められる仕事には、

食費、家賃、洋服代、ストレス発散のための飲み代などの他に、スキル習得費が「労働力の価値」として考慮される

ということです。スキル習得をしたものは、その分労働力の価値が高い。だから年収も高くなるという理屈です。実際、医者や弁護士、公認会計士などのスキル習得にたくさんの時間を費やした職種などは一般的に年収が高い傾向にあります。

 

これと対比される年収の上げ方というのが

・とにかく労働時間を消費する(残業、土日も使った副業)

・毎年同じ業務に向き合って気合や根性などで営業成績を上げる

などの選択肢になります。

 

そのようなやり方だと、瞬間的には年収が上がるかもしれないが、常に同じくらいの時間を費やしたり、努力をしなければならない。

そうではなくて、未来にも通用するスキルを手に入れベースを上げるという考え方=労働力を「消費」するのではなく「投資」するという考え方が必要になります。

例えば、先程の医師免許などはわかりやすい例ですがビジネスマンでも営業のプレイヤーとして活躍できたなら、営業マネジャーとして再現性のある成果の出し方を思考する、マーケティングも思考できるポジションを得て営業×マーケティングの知識を身につける、などが考えられるかと思います。これらのキーワードは「再現性」です。

今日学んだことを、未来にも使用できるかどうか。この学びを得るかどうかが働き方のベースを作れるか、今の成果をだすためだけの力のかけ方なのか、を分けるポイントになります。

 

方法論②満足感を変えずに、必要経費をさげる方法

 一方で、年収を変えなくても、コスト=必要経費を下げるという方法論もあります。

それは、「世間相場よりもストレスを感じない仕事を選ぶ」という方法です。先程記載したように給与とは、労働力の必要経費=明日また働くために必要な経費、で決まっていますが、これの大事なポイントは「※社会一般的にかかる平均で決まる」という注釈がつくことです。

つまり、一般的にはこの仕事はこのくらいプレッシャーがかかるから、このくらい解消するのに必要だろうと思われている仕事に対して、その平均値を下回るコストで解消できるならその分が利益だということです。

僕なりに解釈してみると、例えばマネジメントの仕事でプレッシャーがかかる状況に対して、その仕事自体に興味関心をもって、様々な問題を好奇心とともに解消できるとしたら、本来金曜日の夜の飲み会などで憂さ晴らしする時間を、マネジメントを学ぶ時間に変換できるかもしれません。こういったコストから投資に変えるという作業こそが、ひいては方法論①のスキル習得のプラスの作用に変わり、利益が増していく好循環を生む、と捉えることができます。

 

とはいっても、キャリアを選択するときに、この仕事は相対的にストレスを感じないから選ぼう、と考えることは難しいような気がします。

どちらかというと、「この難しい仕事は、将来の仕事を簡単にするための訓練になっている」という態度で、ストレスではなく興味・関心に置き換えていく力をつける、という方が個人的には実現度が高いような気がします。(完)

 
◆当ブログで紹介した書籍
人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点 (講談社+α文庫)

人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点 (講談社+α文庫)