SPINを顧客の立場から捉え直す(参考書籍︰大型商談を成約に導く「SPIN」営業術)

10年間主流であり続けるSPINという技術

最近、インターン生や新入社員などの営業初心者に対して研修をする機会が増えたのですが、一つの問題意識を抱いてます。

それは「座学なめすぎ」ということです。実践やロープレをたくさんするのは良いことですが、座学をしっかりやらないと前提の知識が少ないのでフィードバックの価値が半減します。

座学で体系的に論理や思考プロセスを理解しておくことは、その技術を使えるようになるだけではなく、それを習得するスピードを上げます。更に、学び始めの一番モチベーションが高いうちに知識を体得しないと後になってその優先度は下がるはず。なので、いかに初期にちゃんと理解しておくか?が重要だと考えています。

そんな中、改めて自分はどうだっけ?と思ったので、営業の議事としては基礎となるSPIN本を再読致しました(応用でもあるのですが)。そこで気付いたのは、SPINは「顧客」の立場に立てば理解しやすいということです。

大型商談を成約に導く「SPIN」営業術

大型商談を成約に導く「SPIN」営業術

  • 作者: ニール・ラッカム,Neil Rackham,岩木貴子
  • 出版社/メーカー: 海と月社
  • 発売日: 2009/12/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 3人 クリック: 32回
  • この商品を含むブログ (6件) を見る
 

こちらの本は2009年発行で今から10年前にパブリックなものになった考え方ですが、現在でも商談においては主流な考え方になっています。営業組織をマネジメントする方や研修する立場の方は一度は学んだことがあるのではないでしょうか?

 

SPINとは?

ここでは、SPINを初めて知る方、久しぶりに触れる方のためにその考えを整理してみたいと思います。まずは下記引用から。

大型商談では、商談中にどれだけ多くの潜在ニーズ、つまり見込み客が抱える問題を発見できるかは、セールスの成否にそれほど影響がないということだ。大型商談で重要なのは、どれだけ多くの潜在ニーズを発見できるかではなく、発見したあとにそれをどう料理するか、なのだ。(中略)成功の鍵は、潜在ニーズをどう育て、どのような質問の仕方をすることで潜在ニーズを顕在ニーズに変えていけるか、である。

 

潜在ニーズと顕在ニーズ

まず営業活動は「顧客のニーズを発見して自社の商品やサービスでそれを解決すること」と解釈した場合、SPINではニーズを2つに分けて考えます。

  • 顕在ニーズ︰顧客の欲求や欲望
  • 潜在ニーズ︰顧客の問題や課題

よく営業の研修では、顕在ニーズは顧客が口にすることが多いのでそれを深ぼって潜在ニーズを把握しよう!という主張があります。そこでは、顕在ニーズより潜在ニーズの方が上位概念として取り扱われますが、解釈を間違えないようにしたいです。どちらも同様に重要で、質問や商談の流れを体系化するために分けていると思っていた方がいいです。

 

SPINとは?

そして、これら2つのニーズをあぶり出して提案につなげるための4つの質問の仕方がSPINという技術です。

  1. 状況質問(Situation)
  2. 問題質問(Problem)
  3. 示唆質問(Implication)
  4. 解決質問(Need-payoff)

特にSPINで重視されるのが示唆質問と解決質問で、これらの質問の仕方が先に引用したとおり「潜在ニーズ」を「顕在ニーズ」に育てる肝となるものになります。これらを理解し、活用することができれば、現在取り扱っている商材やサービスに依存しない営業スキルを身につけることができます。

 

顧客の立場に立って理解する

SPINの考え方は、営業を受ける顧客の体験を想像し、その解像度が高いほど腹落ちしやすくなります。僕自身は、外部の営業を受ける立場になったことでSPINの理解度が増しました。なので、新人セールスはまず営業を受けてみたり、自社内で営業を受ける立場の人にインタビューをしてみると良いかもしれません。

 

顧客の立場①「俺だけじゃ決められない」

SPINはタイトルにもあるとおり大型商談を対象としたスキルです。大型商談の定義は明確にされてませんが、予算×検討期間×利用期間といった変数が大きければ大型商談と位置づけて良いかと思います。

そういった場合、顧客は自分の判断だけでは決められません。上司や別部署の担当者など、「俺がいいと思ったモノを他の誰かにも良いと思ってもらう」必要があります。決済は自分でできても「俺が決めた」という事実が利用時になってどのような社内評判になるかを気にすることもあります。「営業がイイヤツ」とか、「ノセられて」とかでは受注に至りません。そのため、

  • 営業には感情+論理(ロジック)が必要

なのです。

でも感情でしか納得していない客は、他の人たちを説得できない。だから、他の人とも検討することになりそうだなと思ったら、客観的なビジネス上の利点をあげるようにしているんだ。おかげで大型商談の業績も前より上がったよ

 

顧客の立場②「断るのはめんどくさい」

決済権があったり、その影響力があったりする立場の方は当然年に数十回の営業を受けています。誰しも進んでネガティブな事を言うのは避けたいですし、何なら嫌いな人からも一応は好かれておきたいと思います。断ろうと決めていても、適当にポジティブな事を言って営業に帰ってもらった方が効率的だとも考えます。一方で、営業はその円滑な別れを案件化と勘違いします。忙しい営業とって無駄追いは致命的。そのため、

  • 営業の進展は具体的なアクションにつながったかどうか

で評価しなければなりません。顧客の反応や、関係値が前進したからなどと悠長な事で良し悪しを判断するセールスはその進捗を大幅に遅らせることになります。

※具体的なアクションの例︰次回商談のアポイント、決済者とのアポイント、デモンストレーション、見学、見積書の送付

 

顧客の立場③「先の読めない質問は腹立つ」

商談の場では基本的に営業が主導で会話が進む事が多いと思います。少なくとも会話の始まりはそうあるべきです。営業も本心で顧客の役に立ちたいと思って様々な質問をしたとしても、その質問が誰のためになっているか考えなくてはなりません。

状況質問は顧客の状態を正しく認識する上では必要不可欠です。ですが、それがあまりにも多いと顧客はこの質問が何に役に立つか疑問を抱きます。そのため、

  • 状況質問を減らすために下調べをしておく

ことが大事になります。

「そんなことくらいホームページを見ておけ」とならないようにしましょう。

状況質問で利益を得るのは見込客かセールスパーソンか?明らかに後者だ。多忙な見込客は、セールスパーソンに現状をこと細かく説明する事態を喜ぶはずがない。

 

顧客の立場④「なんで良いと思ったか忘れる」

商談ではあれだけ温度感が高かったのにその後に全然進まないという状態は古今東西存在すると思います。その大半は顧客がきちんと商材の利点を捉えていないが故に、「なんで良いと思っていたか」を改めて思い出してないからです。加えて、1時間の商談で記憶に残る情報なんて、せいぜい1つや2つです。要はニョロニョロとワンセンテンスくらい。ほかにも様々なタクスを抱えている顧客は実態はそのようなものです。顧客を過大評価してはいけません。

SPINでは、その状態に陥りやすいのは、よくある一般的な問題に対する利点を訴求した場合だと説明しています。そのため、

  • 顧客の顕在ニーズに対して自社商品がどのように応えられるかを紹介する

ことが大切です。これを顧客の「利益」と定義してます。一方で単に商品の特徴から顧客にどのように役に立つのかは「利点」を紹介していることになります。「利益」を紹介することで、顧客にユニークな課題解決をすることができると思わせ、なぜそれが有用なのかを覚えていてくれます。

「利点」は商談のあとにすぐ忘れられてしまうことがわかっている。つまり、「利点」の効果は一時的だ。対象的に、顕在ニーズとつながっている「利益」は、見込客にとって覚えやすく、次の商談まで効果が持続する。

 

顧客の立場⑤「ビジネスの視点が合う人と話したい」

誰しも、ビジネススキルが高く一目置かれている方には話を聞きたい、参考にしたいと思うものです。そういう人はたいてい事業責任者だったり、役職者だったりで営業職ではないことが多いですが、極論を言えばこの人達が営業をしたらめちゃくちゃ売れると思います。

では通常の営業と、これらのビジネススキルを備えた方では何が違うのでしょうか?様々あるかと思いますが、

  • 売上責任(収支責任)を持っている
  • ビジネスドライバーを常に思考している

ことが営業上は差分要素として大きいと考えます。それ故、決済者の立場になってその痛みや課題感に共感し、かつ顧客が見えていない変数も捉えることができる(示唆質問)のだと思います。また、課題の解像度が高いだけではなく、打ち手の幅も豊富です。示唆質問や解決質問をSPINという技術を使わずとも自然にできてしまいます。そう考えると、

  • 自社の商材や事業について事業責任者の立場になって考えまくる

ことが、実は一番営業力をあげるかもしれません。そのことが、事前準備の仮説の精度を高め、また示唆質問の幅を増やし、顧客を自社商材を活用して成功に導けるのではないのでしょうか?

役割や役職がないからなどと悠長なことを言っていれば足元の営業スキルもついていきません。役割がなくても常に上位の立場で思考し続けることが、キャリア形成だけではなくSPINの会得にも大きく関わりがあるというのが僕の考えです。

 

以上のとおり、SPINの技術は顧客の立場からすると、そうした方が良さそうだと理解できることばかりです。技術本は多数ありますので目移りしたり新しい技術に飛びついたりしたくなりますか、まずは軸足を一本作ること。そのためにはまずその理論を頭で理解することが必要です。(完)

 

◆当ブログで紹介した書籍

大型商談を成約に導く「SPIN」営業術

大型商談を成約に導く「SPIN」営業術

  • 作者: ニール・ラッカム,Neil Rackham,岩木貴子
  • 出版社/メーカー: 海と月社
  • 発売日: 2009/12/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 3人 クリック: 32回
  • この商品を含むブログ (6件) を見る